窓の向こうのガーシュウィン 宮下奈都

今日の読書感想は、宮下奈都さんの「窓の向こうのガーシュウィン」です。

 

宮下奈都さんの作品は2016年に本屋大賞を受賞した「羊と鋼の森」を読んでから、「誰かが足りない」「たった、それだけ」「よろこびの歌」等を読みましたが、一番好きになったのが「窓の向こうのガーシュウィン」です。

 

未熟児として生まれ、父親はふらっと家からいなくなって何年も戻らない、母親は朝帰りが珍しくないという家庭の中で育った主人公の女性佐野さんは、ちょっと天然系&人の話をきっちりと聞くことができないのです。全く聞き取れないというのではなくて、込み入った話なってくると雑音が混じって聞き取れなくなってしまうという。

 

そんな彼女は一度は会社に就職するものの、すぐにその会社が倒産してしまい、たまたま目についたという理由でホームヘルパー3級の資格を取得します。

ヘルパーとしてある家庭に派遣されます。

そこでは横江先生と呼ばれている老人と、その息子(といってもおじさん)の男性が暮らしており、男性は絵や写真を飾る額を作る仕事をしています。

更にその男性の息子、隼は佐野さんの学生時代の同級生だったのです。

佐野さんはある日から男性に頼まれて、額装の仕事を手伝うことになります。

耳が悪かったこともあるのか、天然な感じだからなのか、これまで何かに熱中することなく、またあまり人と深く交流してこなかった佐野さんがホームヘルパーや額装の仕事、そして横江先生一家と過ごすことで本気で何かを考える・感じるということができるようになっていくのです。

 

 

この本の好きなところは、佐野さん・横江先生、2つの家庭の家族愛を書いている点と、表現が面白い個所がたくさんある点です。

 

 

横江先生はだんだんと認知症が進んできており、孫の隼は祖父・父とはあまりうまくいっていなかったのですが、それでもそんな祖父のことを心配して介護に携わろうとします。また、横江先生は隼が認知症の状態を確認するために出した「最近起きた一番のニュースは?」という質問に対して「隼が生まれたことを上回るニュースは今のところない」と答えます。

こんな回答をされたら、それまでにどんな出来事があったとしても、はっとするんだろうなと思い、この場面がとても印象に残ります。

 

また、佐野さんの家庭については、話の途中で父親が帰ってきて、妻に寝室から追い出されて玄関前で寝ていたり、娘にも嘘か本当か分からないことを言っているダメダメな男なのですが、それでも家族のことは好きなんだろうなと伝わってくる感じで、ほんわかします。佐野さんも天然で色々ダメそうな感じはありますが、この父親のほうがそれをしのぐほどダメなんだろうなと。

そして母親はそんな父親を寝室から追い出したり怒りながらも家には置いており、約10年間は女手一つで娘を育てており、やっぱり家族が好きなんだろうな、と思います。

主人公の佐野さんは物語の最後、「誰も私を急がせないでいてくれた、未熟に生まれた赤ん坊なのに、急いで大きくなる必要がなかった。」と両親の優しさを感じます。

人がうらやむような理想的な家庭ではなくても、家族それぞれがお互いのことを思い合っているんだな、と感じられて、この本を読んでよかった、ととても思えます。

 

以上で「窓の向こうのガーシュウィン」の読書感想は終わりです、読んで頂いてありがとうございました。

 

窓の向こうのガーシュウィン (集英社文庫)

窓の向こうのガーシュウィン (集英社文庫)